久々に友人の前田有佳利さんに会いに和歌山に。仕事ではなく、ただただ単純に近くて遠い和歌山という土地に行ってみたかったからだ。こういうとき観光ガイドを片手に行くのはあまり好きではない。その土地を知る人が良いと思った、その魅力に触れるのが好きだ。
ちなみに彼女は、普段はライター業を主としているが、ゲストハウスに情熱を燃やす女性でもあり、ゲストハウス専門のWebサイトの運営や書籍の作成、情報発信などを行っている。ゲストハウス自体への魅力というよりは、その中でもコミュニケーションや人とのつながりと言ったろころに魅力が感じていると話していたと記憶しているが、もうその話を聞いたのも随分前なので現在はどうなんだろうか。その話はさておき、そんな彼女に今回はアテンドをお願いした。
元和歌川漁業協同組合 灰干しの津屋
和歌山駅に着いて早々、地域の食堂に連れて行ってもらったのがこちら。
絶対初見だったら入らない風貌の店。商品サンプルはおろか、お品書きすらない(かろうじて看板はあったかもしれない)。暖簾が店であることを若干表しているかもしれないが、横にある看板は和歌川漁業協同組合と書かれており、食堂感は一切ない。
店内に入るとカフェと食堂を融合させた空間が広がっていた。和歌山で活躍する「源じろう計画事務所」という集団によるプロデュースらしく、彼らは空き物件だけれども、本当に良い場所だと感動した建物をセルフリノベーションし、そこで事業を行うそうな。この建物も元々は和歌川漁業協同組合という名前の通り、組合の集合場所だったのか倉庫だったのだろう。元がどんな場所だったのかは今ではイメージできないけど、どんな風貌をしていて、どんな可能性を感じたのだろうか。
さてさて、ここは食堂なので食の話に戻そう。ここでいただいたのは灰干しという製法で作られた魚の定食。干物というカテゴリだけれども日に干すわけではないらしい。灰で干すのだそうな。(和歌山に灰ってどこからでるんだろう?そのあたりの出自がはっきりすると製品の物語として強いものになりそうだけれどもさてはて。)
食感はほぼ焼き魚。食べていると干物であることを完全に忘れてしまうくらいの食感。天日干しの魚だと、どうしても抜けてしまう水分や油が灰干しだと抜けにくいのだろうか。詳しく知りたい方は各々で調べていただきたい。
時間と空間と自分の調和するカフェ
また同日に連れて行ってもらったrub luck cafe(ラブラックカフェ)。こちらも「源じろう計画事務所」のプロデュースらしい。またこのパターン…今回は看板はおろか名前すらない。事前情報無しでは絶対入れないが、道路沿いの道に多数の車が駐車され、店内は待ち状態であった。元々除虫菊と呼ばれる殺虫成分のある植物を育てていた会社の倉庫だったそうだが、時代の流れで倉庫を手放す事になり、そのまま誰も入らぬ空き家になっていたところを借りたそうな。
店は海外通り沿いにある週末限定でオープンするカフェ。眼の前には海岸線を走る道路の他は海と太陽しかない。
中に入ると外からの印象とは打って変わって、太陽光による光の道が建物の中を照らす。2階のフロアに上がると大きな空間と大胆な空間使いのフロアが広がる。
個人的にはここ数年で一番の衝撃の場所だった。カフェというものを思い浮かべると、おしゃべりに花を咲かせる人々・PCで仕事をしている人たち・なにかの勧誘などなど、騒がしく、人がごちゃごちゃしているイメージである。しかしここのその真反対を行く配置と人の少なさ。そして鮮烈な自然光に照らされる空間である。色んな情報がシャットダウンされて、ただただ目の前にある時間とゆっくりと変化していく太陽光を肴にコーヒーを飲む、そんな場所。しかもこのカフェ、ある意味当然なのかもしれないけど、日が落ちたら営業を終了する。
妙な言い方かもしれないが、ソファに座ってみると徐々に落ちてゆく太陽光と空間、そして自分自身が調和し、境界線のない感覚を覚えた。その場にずっと居続けられるというか。ごくたまにではあるけれども、そういう感覚を覚える空間がある。総じて居心地がよく何時間でも居続けたいと思う場所。顧客回転率とか、立地とかそういうものはまず置いておいて、ここに滞在する人々がどうすれば心地よく滞在(座っていられるかのほうが正しいかもしれない)できるのか、ただただ、その「良さ」の一点を追求したカフェなのだと個人的には感じている。
他にも日本のアマルフィと呼ばれる雑賀崎の漁村に連れて行ってもらったり、和歌山の山椒や柑橘ピールを混ぜた塩やナッツを制作している人のカフェに連れて行ってもらったりと、所謂観光というよりはその土地の生活や思い人に会いに行った、そんな感覚だった。
一日使って和歌山のオススメを案内してくれた前田さん、改めてありがとう。